小さな頃から、生き物を動かしている動力に興味があった。ゼンマイ仕掛けとか、蒸気機関とか、電気とか、モノを動かす力については勉強すれば納得できたけれど、生き物を動かす力だけは訳がわからなかった。頭が良いとされる人たちに質問しても、ひとつも納得できる答えは得られなかった。
この世には途方もなく複雑な問いに対して答えが用意されていることもあるのに、こんなに単純に見える問いに対する答えが見つからない。答えが見つからないまま50歳になった。
狩猟の現場に立ち会うようになって、少しだけ分かったことがある。
狩猟で獲物の息の根を止める作業を「止め刺し」というが、このときに「あ、抜けたな」と言われる瞬間がある。ここを境に獲物の身体的な活動が停止する。槍で立ち向かうからこそ出会える、銃や電気槍では決して立ち会うことができない瞬間だ。何が起きているのか、詳細はまだよく分からないが、敢えて言葉にするなら、「エネルギーの塊が身体を抜け出ていくような瞬間」だ。
以前、医師に尋ねたとき、頸動脈を断ち切ると大量出血により大幅に血圧が下がり、意識を保てるはずなどないから、獲物は痛みなど感じていないはずと言われた。ところが、動物たちはその後もしばらくはまるで意識があるような振る舞いをする。エネルギーの塊、つまり魂のようなものと、僕らが意識と呼ぶようなものは、もしかしたら別なのかもしれない、と思うようになった。
真剣な命のやり取りの現場では、学問の(どこまで行っても結局は何事もどこか人ごととしてしか捉えられない)世界では見えない「領域」も垣間見ることができるのかもしれない。
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